第9章 夜明け前(仮題)
「ほんじゃあ、わしらーめん3つ、ぎょうざ5皿で」
どんだけ食うんや。
顔に出ていたのだろうか、坂本氏は困った顔で、
「いんや~。わし船が苦手じゃき。船旅中、な~んも食えんせん。まっことつらい旅でのぉ」
と言った。
「第八シェルターには、鉄道も通っているので、そちらを使うと少し違うかもしれませんね。荷を運ぶ場合は無理ですけど」
「へええ、鉄道ですか!それは知らんかった。そんな便利な物あるんがのぉ」
「星と星との間では規制が厳しいところもありますので、身分証明は何度もさせられると思いますけど」
この第八シェルターまでは、ほぼ春雨が押さえているので、乗車駅によっては入国するのに高い金取られるところもあるだろうけどね。(うちらは無料で使える)まあ、そこまで教える義理はない。
「で、話をもどすんがや、うちと、取引して欲しいぜよ」
坂本氏は単刀直入に言った。
「取引ですか。どういう取引ですか?」
「取引は取引じゃあ。ここで自由に商売をさせて欲しいぜよ」
商売かぁ。
快援隊についてくわしく知らないけども、きっと星を股に駆けた大きな会社なんじゃないかなぁと思う。
でも、だからこそ不思議だ。
「坂本さん。あなたが『私に』声をかけてきたってことは、私が春雨の一員だってこと知ってるんでしょう?」
「もちろん、そうじゃあ」
「私は宇宙海賊なんですよ?」
春雨と商売がしたいんだったら、私に頼むのは、だいぶお門違いだ。
「海賊との商売に来たんじゃないき。この町で、商売がしたいんじゃ」
なるほど…。
大勢の観光客を受け入れているわけだし、そういう話があってもまったくおかしくはない時期なのかもしれない。
だけど、私が決めていいことなのかどうかも…。
少し考え始めた私を見て、坂本氏はにやっと笑った。
「やっぱり、おんしはわしがおもっちょった通りのお人じゃった」
「どういうことですか?」
「町を、人を愛している人。そういう人と、わしは商売がしたい。商売を通して、人を幸せにするっちゅうんが、わしのぽりしーじゃき」
本当に心からそういうことを思って行動できる人なんだな、と感動したのと同時に、今の自分にはまぶしすぎると思った。