第9章 夜明け前(仮題)
あれから私は、宇宙鉄道に乗って神威とともにアジトに帰ってきた。
地球で密輸ルートを確立する役目は、やはり神威が任されていたらしく、任務も終わったため、一緒に帰国の途に着いた。
第8の駅につき、神威はよろよろと歩く私のペースに合わせて、少し前を歩く。
あれからずっと何も話していない。顔を見てもいない。
でも、今は何も考えられなかった。
「団長!」
駅から出ると、懐かしい声がした。
私はその声に反応して、そちらを見ると、そこには阿伏兎が待っていた。
「…那美。おかえり」
不意に神威はそう言って私の手を取った。
少し遅れて、阿伏兎が私のもう片方の手を取った。
「やっぱり、俺たち第七師団は、お嬢がいなきゃ何もはじまらねえみたいでよ」
私は、やっぱり…
ここが私の居場所なんだよな。
「うん…ただいま…」
そう言って、また泣いてしまった。
「お嬢、ずいぶんやつれましたね」
阿伏兎が神威に言う。
「そうだね。那美には少し…時間が必要だと思う。しばらく休んでもらおうと思って」
神威は、分厚い書類の上に置かれた文鎮を軽く持ち上げ、一枚取り出し、目を通しながら言った。
頬杖をついて書類を読みつつ、
「昔、阿伏兎が言ったとおりだった」
と言った。
「何の話?」
「『あんたの人選は…』て話だよ。まさか、こんなに…」
言いよどむ神威。
俺だってここまで予想できていなかったさ。お嬢の才能も、存在の影響にも。
自嘲気味に笑って、
「そりゃぁ…お手上げだね~」
と言って見せた。
あのまま、お嬢には地球で幸せに暮らしてもらったほうがよかったと思う。もちろん、第七師団にとっては大きな痛手になっていたとしても。
団長もそう思っているだろう。
でも、お嬢は。
どんなに苦しい決断だったのかわからない、なのに。
こんな俺たちを選んで戻ってきた。
お嬢をスカウトして、夜兎として教育してきた団長は、俺の衝撃以上のものがあっただろうと、容易に想像できる。
何も言わず、真面目に仕事をする団長の姿が、なんとも悲しかった。