第8章 つかの間の愛
どこをどうやって歩いてきたのか分からない。
ただ夜の街を傘を引きずりながら歩いてきた。
気づくと海に来ていた。
まっくらで、明かりがひとつもついていない。
でも、それが返って気持ちを落ち着かせてくれた。
星ひとつない空、こんな日には…
「那美?」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「やっぱり、あなたは…こんな日に現れるのですね…」
振り向けば、そこには赤い髪の少年が立っていた。
「那美…!探したよ!」
そう言って走り寄ってくる、神威。
「那美が任務に失敗して、どこかにつかまってるんじゃないかって、八方探した、ん、だけど…」
その姿を見て、私は堰を切ったように涙が溢れてきた。
嗚咽を殺せず、殺そうともせずに、まるでこどものように泣いた。
「…どう…したの…?」
そんな私にひどく狼狽した様子の神威は、私の肩を両手で掴み顔を覗き込んできた。
「裏切れなかった…あなたを…」
嗚咽の中搾り出すように言った。
「でも、本当は、あの人を…信じて生きたかったよ…」
涙はぬぐってもぬぐっても溢れてくる。
そこまで聞いた神威はぎゅっと目をつぶって、私を力強く抱きしめた。
そして、
「ごめん…ごめんね。…ごめん」
そうやって、私が泣き止むまでずっと、あやすように繰り返し謝り続けた。