第7章 胡蝶の夢
「お前…ワタシのよく知ってる奴によく似てるアル。
何者アルか?お前がこの惨状を作り出した奴アルか?」
そう言って少女は傘をこちらに向けた。
「…いいえ。チガイマスヨ。私は夜のお散歩をしてただけです」
「こんな世界一危険な街を散歩する普通の女はいないアル」
まっすぐに少女はこちらを見ている。曇りのない目で。
もう、私は普通の女の子じゃないんだな、と改めて痛感させられた。
「…そうですね。私は、もう、普通の女ではないですね…。
あなたの言うとおり、私がこの惨状を作り出した張本人、になるのかしらね。
薬をこの星に持ってきた者です」
嘘をついても意味がないと思った。
あの瞳の前ではなんの意味もない。
「どうしてくれるアルか!街中の人たちがおかしくなって、人が人を襲ったり、暴れたりして大騒ぎアル!いますぐ薬を持って帰るネ!」
「人がほしいという物を提供しただけのこと。私は商売をしているだけですよ」
「何が商売ネ!お前の目は節穴アルか!?今この街で起こっていることを見ても、商売だって言えるアルか!?」
彼女の言っていることが、正しい。絶対的に正しいのだ。できれば正しいことを信じ行動して生きたかった。
「残念ながら、私とあなただと、価値観がまったく違うようですね。地球人は自らの欲に負けたのです」
「それを責任転嫁って言うネ!!」
そう言って少女は私に傘を振り上げた。
私はすばやく着物を脱ぐと、隠し持っていた傘を使って、空高くジャンプした。
「さようなら、夜兎の子。
許してとは言いませんが、二度と会わないことを祈ります」
そしてそのまま高層ビルの上に着地し、街を後にした。