第17章 「桜の季節」/上杉謙信
「今年は天女がいるからなぁ。
今までのむさくるしさは消えてホッとしたよ」
「またアンタはそういうこと言って……」
信玄様が饅頭を頬張りながらにこやかに呟くと、
隣でお酒を飲んでいた幸村が呆れたように言う。
この光景はなんだかいつも見ている気がする。
「まあ信玄は女好きだから、今更だよね」
その隣で優雅にお酒を飲んでいた義元さんが、
ニコニコと笑いながら幸村にそう言った。
本当に義元さんは自由だなぁなんて、
その様子を見ながら自分の頬が緩んでいる感覚がする。
「信玄、お前にはやらんぞ」
どうやら信玄様がずっと私を見ていたことにイラついたようで、
謙信様が機嫌の悪い声色でそう言い放ち信玄様を睨みつけている。
「まあまあ、謙信様。落ち着いてください。
こういう時こそのんびりしましょうよ」
追加のお酒を取りに行っていた佐助くんが、
いつの間にか戻ってきており、
不機嫌さを隠さない謙信様に新しく持ってきたお酒を、
空になっている猪口(ちょく)に注ぎ込んでいる。
あとついでに持ってきたらしい、
塩辛い梅干しも小皿に乗せ始めていた。
「ん?佐助、梅干しも持ってきたのか?」
「ああ、謙信様が持ってこいと言うだろうと思って」
幸村が少し引いた顔をしながら佐助くんに問うた。
当初は持ってくる予定ではなかったはずの梅干しを小さな壺に移して、
佐助くんは持ってきていた。