第14章 「全ての光」/上杉謙信
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目を開ければそこは途方もない花畑が広がる世界。
それ以外には何もなかった。
「謙信様」
不意に後ろから声が聞こえた。
この声は紛れもなくそして忘れるはずもない、
俺が……唯一愛した最愛の女の声。
「舞」
優しく微笑む舞に近寄り、
その頬に手を添えると少し俯かせていた顔を上げ、
その瞳に涙を溜めながら、
「……お疲れ様でした謙信様。
ずっと……ずっと、見ていました」
ポツリと涙を一筋流しながら
全てを慈しむかのような顔で舞はそう告げる。
あぁ、全て見ていてくれたのか。
お前がいなくなったあとの世界で生きた俺を。
「舞。お前の望みを叶える事が出来なかったが……
だが、後悔はしていない。
俺の全てはお前がいる場所で生きる事なのだから」
静かに涙を流す舞を抱き締めて、
そっと囁くように呟いた。
「嬉しいです、謙信様。」
ゆっくりと舞の細い腕が俺の背中に回り、
ギュッと抱きしめ返された。
やっと世界に彩(いろ)がついた。
眩いばかりの光を放つお前のおかげで。
全て同じように見えた景色は、
色とりどりの個性を魅せていて。
世界はこんなにも明るく美しかったのだと、
もう一度お前に逢って分かったんだ。
「来世も傍を離れるなよ」
「もちろんです、謙信様」
明るい俺だけの光。
二人してこれからまた始める為の旅を踏み出した──。
【the end】