第12章 「唯一敵わない人」/織田信長
暖かくなってきた今日この頃。
相変わらず信長様は忙しそうで、
隣で書簡をまとめるのを手伝っていると、
その目まぐるしい程の忙しさが身に染みる。
「こほっ」
「風邪か?」
「あ、はい……。
咳がちょっと出るくらいで特に問題は……」
コホコホと何故だか最近喉を痛めてるようで、
咳が出るようになっていた。
熱はないと思うんだけどなぁと頭の中で思っていると、
いつの間にか私の足の膝裏と腰に信長様の腕が回されていた。
「え……あ、あの信長様っ?」
「風邪ならば休め。無理をする必要はない」
そっと優しく褥に寝転ばされ掛け布団をかけられる。
優しいな……と思いながらも、
手伝うことのできない自分が何だか恨めしい。
「家康を呼んでくる。大人しくしていろ」
「あ、はい……わかりました」
信長様が枕元から立ち上がって天主から出ていった。
何だか風邪を引いたのはこの時代に来てから、
何気に初めてでは……と思い付いた。