第7章 「何度も」明智光秀
こやつは変なところで勘が鋭い。
だが自分に向けられている好意にはまったく気付かない。
それだけ自分に興味がないようだ。
「舞、帰るぞ」
「あ、はい」
お代を出して、
舞の買い出しで買った荷物を持って舞と共に御殿に戻ることにした。
光秀さんが「帰るぞ」と言ったので、
私も帰ることにした。
何故だが光秀さんの雰囲気が暗い感じがする。
私はなにか怒らせるようなことをしたのだろうか?
部屋に戻ると光秀さんに抱きしめられた。
珍しいなと思いつつも、
何か変なことを言うのはやめようと光秀さんの雰囲気から察した。
「舞」
「は、はい」
いつもよりも低い声で名を呼ばれたため、
少し上擦ってしまった。
「お前は何度怒らせれば気が済む?」
「へっ??」
光秀さんがこちらをジーッと見つめて、
その瞳にはどこか熱い瞳を宿していた。
「お、怒らせるようなことをしましたか?」
私は少し強張りながら光秀さんに返答した。
私は怒らせるようなことをしたのだろうか?
迷惑をかけるようなことはしてなかったはず……。
「そうだな。
お前はあの反物屋の若旦那に好意を持たれているようだな。」
「えっ…?えっ?!!」
光秀さんに言われて初めて気付いた。
確かに優しい人だとは思った。
けど好意を持たれているだなんて思いもしなかった。
「は、初めて知りました……」
「だろうな」
光秀さんは深くため息を吐いた。
それはわかっていたようではあったが。
「お前は危機管理意識が低い。
もっと危機感を持てと言っているだろう?」
「は、はい……」
頬を優しく包まれ、
顔が近くなって恥ずかしくなったが、
光秀さんの必死さが伝わったため真面目に返答をした。
「さて、仕置をせねばな?」
とニコニコと怖いほどににこやかに微笑みを浮かべられて、
私は背筋が凍るように背を伸ばしてしまった。
────光秀さんの笑顔が怖い。
怒らせるようなことは二度としないように、
もっと危機感を持とうと思ったのでした。
【the end】