第5章 ※過去と傷と、白と黒と
——point of view 中崎エリ
母と父は言った。
「貴女は何も悪くないのよ。悪いのは全てあの男なのだから。貴女はずっと、ここに。この家にいればいいから」
「また怖い思いをするくらいなら、外になんて一歩も出なくていいからな」
世間体を人一倍、気にする両親。
そうして私を。まるで恥ずかしい物に蓋をするみたいに、家という箱に閉じ込めた。
当時付き合っていた恋人は言った。
「ごめん…正直、これからどうやって君と付き合っていけばいいのか分からない。
でも、お前は可愛いし優しいし。俺なんかよりもっと良い人が、きっと見つかるから」
自分が傷付かないように、自分だけ守って私の前から姿を消した。
同じ会社で働いていた、仲間が陰で言った。
「おい、ニュース見たか?
やっぱアイツだよな!!まじビビったわ!アイツあんな事あったのによく会社来れるよな。
もしかして、そういうのが好きな奴だったりして。ははは!」
正直、この頃には何も感じなくなっていた。
痛みも。涙すら枯れて。
私の世界から色は一切消えていた。一瞬で世界は色褪せた。
もう。いい。
私は、地上十八階から階下を見つめた。
やっぱり今の私には、恐怖という色すら拾う事すら出来ない。
あぁ。神様なんて信じた事は一度もないけれど。
もしまだあなたに良心とか同情心のカケラがあるというのなら。
私を、
誰も私の事を知らない世界に…
優しい人たちで溢れる、
優しい世界へ連れてって…
もしそれが不可能というのなら。
もうこの生に未練なんて微塵もない。
飛んだ。
このモノクロの世界から逃げるように。