第27章 到着と生贄と、執念と偽善と
——point of view うみのイルカ
彼女の講義を受けられる日は、それだけで朝からずっと落ち着かない。ソワソワしてしまって落ち着かないんだ。
分かってる。いい歳して浮かれてるって。
意味もなく、いつもよりも少しだけ早く出勤してみたり。
弁当の中身をちょっと手の込んだ物にしたり。
彼女の出勤時間はまだまだ先なのに。いまから会えるのが待ち遠しい。そんな新鮮な気持ちで、隣のデスクを眺めてしまう。
そこに、予期せぬ来客があった。
ミナトの付き人である初音が、俺を訪ねて現れたのだ。
さらに驚きの内容を、彼女の口から聞かされる。
“ 中崎エリ様 ご担当の講義は、こちらから再度連絡があるまでは休講扱いとして下さい ”
いっぺんに色々な事を考えた。体調不良?休職?まさか職場に不満が!?
自分でも情けないくらいに気が動転して、すぐに彼女を引き止めて理由を問い質す事が出来なかった。
てかそもそも、そんな時間は与えられなかった。珍しく初音は慌ただしく足早にこの場を去って行ったから。いつもなら、もう少し落ち着いた雰囲気の人物だった気がするんだが…
そんな様子が、また俺を不安にさせた。嫌な想像が加速する。
彼女の身に、何かあったのではないか。と
かと言って、今すぐに俺が何か動くわけにはいかない。あと少しで始業の時間だ。
いやに早く鳴る心臓を押さえつけて、なんとか昼休みまで自分の仕事をこなした。
そして昼休みの時間と夕方からの時間。全てを使って調べてみたが、何も見つけられなかった。
本人、カカシ、サスケ、四代目。誰一人として探し出せはしなかった…。
彼女と、彼女の周りの人間が揃って姿を消した。これはもう何かが起こっているに違いない。
俺はすっかり暗くなった空を見上げた。
一人きりで見る漆黒の闇が、こんなにも怖いと感じたのは久しぶりだな…。