第22章 ※蝶と房事と、誘惑と忘却と
——point of view 黒蝶アゲハ
一目惚れだった。
運命の恋だと思った。
あの日も、今日みたいに雪の降る真冬の夜で。
中忍になって初めての任務。
ガラにもなく緊張していた私。
敵を深追いして、逆に新手に囲まれてしまった。相手の数は四。今の私の力では、生きて帰る事は絶望的だった。
それでも、粘って、粘って。でもやっぱり敵わなくて。
敵のクナイが自分に振り下ろされる瞬間。私は争う事をやめ、静かに目を瞑った。
しかし、私を切り裂くはずの刃はいつまで経っても降ってこなかった。
恐る恐る目を開けると、あの人の背中があった。
広くて、大きくて。力強い背中。
今から思えば、私はその背中に恋をしたのかもしれない。
彼は、あっという間に複数の敵を瞬殺した。
それから私に言った。その一言一句を、私は今でもはっきり覚えてる。
“ いま君、生きる事諦めたでしょ。
それだけは絶対にしてはいけない。
強くなりなさい。
任務で一番重要な事は、巻物を守る事でも 敵を多く殺す事でもない。
生きて、里に帰ってくる事だよ ”
私は、里に帰ってから彼の情報を集められるだけ集めた。
私も忍だから。もちろん彼の顔や名前は事前に知っていたけれど。
新たに仕入れる事が出来た情報の中に、驚くべき事柄があった。
里が、秘密裏に行なっている、個人授業がある。その担当教官の一枠を、彼が担っていると。
選ばれた優秀なくノ一のみが、それを受講する事が出来るらしい。
私の、目標が決まった瞬間だった。