第12章 愛の鞭と、レモンと母と
「で、出来た!!これでどうだ!!」
バッテラが、最後に捌いた鰹を私に向かって見せつけてくる。
『…私じゃなくて、ほら。見て欲しい人が他にいるんじゃない?』
私は彼が捌いた魚を、女将さんに見てもらうべく。彼女をまな板の前まで促す。
「バ…バッテラ…」
「な、なん、だよ」
母の、ずっと堪えていた涙だったが ついに我慢が出来なくなり、地面に零れ落ちた。
「アンタが、…っ、アンタがこんなに立派に、魚を捌ける日がくるなんてぇっ///
私は…私はっ…!」
「っ、……ごめん。…ごめんな、今まで本当」
彼等は、ずっとすれ違っていたのだろう。
しかし。本当に心の底から憎み合っていたわけではない。
ほんの少しのきっかけで、こうやって分かり合えるのだ。
その手助けが出来ただけで…私は満ち足りた気持ちになった。
私は成す事の出来なかった、親との和解。
しかし彼は今、確かに母親とのわだかまりを見事に解消してみせたのだ。
『あ、はたけさん。さっき買って来てもらった物。頂いてもいいですか?』
「ん、勿論」
私がカカシから受け取った物。それは、レモンである。
それの皮を包丁で一部切り取り、バッテラに見せる。
『手、出して』
「あ、あぁ」
素直に差し出された両手。その手の平の上に、レモンピールを軽く滑らせる。
『レモンに含まれるクエン酸は、魚の匂いを中和してくれる成分が含まれているの。
特に皮に多く含まれてるから、こうすると手の臭いもマシになるから…』
「…分かった」
私はバッテラの目を見て続ける。
『この鰹…私達の今日の晩御飯にしたいんだけど 買わせてもらっていいかな?』
「俺が…捌いた魚を、買ってくれるのか?」
『うん!十分商品になると思う。でも、やっぱりまだまだ修行だね。
また抜き打ちで買いに来るから…
頑張って、立派な魚屋さんになってね』
「……あぁ。任せろ。
エリ…ありがとう」
『…うん。
あ、あの…はたけさん』
「はい?」
『…少し、お金借りてもよろしいでしょうか』
ここで自分のお金で買えたならば、どれだけ綺麗に終われたことか。
情けない…
「あ!アンタそれなら…」
女将さんが、私に向かって茶封筒を手渡した。