第12章 愛の鞭と、レモンと母と
——point of view 魚沼バッテラ
俺の親父は、漁師だ。
大抵は海の上にいる。そんで親父の船で獲れた魚を、母親がこの魚沼で売る。
物心がついた時から、そういう流れが出来上がっていた。
母親は、親父がいない寂しさからか 俺をベタ可愛がりした。
店を手伝わずフラフラしていても叱咤された事は一度もないし。
俺のワガママ通り、店の従業員は女のみを募集した。
従業員はだいたい毎回すぐに決まった。
執拗に部屋の前を徘徊して、怖がる姿を見て楽しんだ。
部屋の不在時に忍び込んで下着を隠したりもした。
すると、大概の女は俺を見た。
気持ち悪い。最低。クズ。
そんな、ゴミを見るような目で。
でも、それでも良かった。
だって…俺を全く見ない両親よりマシだから。
そう。俺の事を見てさえくれれば、どんな目でも。どんな奴でも。
別に良かったんだ。
また新しく女が採用された。
今度も出来るだけ怖がらせて、俺の事を見ざるを得ない状況を作った。
でも、計算外の事が起きた。
まだ仕事の時間だったはずなのに。急に部屋に戻ってきて鉢合わせ。
焦った俺はなんとかその場を丸め込もうと、色々やったけど全部裏目に出た。
魚を捌いてる時、異様に嬉しそうな顔をしていた 変わった女だった。
変な…女だったけど、不思議とその横顔をずっと見ていたいと思った。
でも…
もう二度と、会う事はないんだろう。
って、思っていたのに…
アンタどうして、戻ってきたんだ?
馬鹿なのか?あんな目に遭わされたのに、何を考えてるんだ?
コイツが何を考えているのか、全く分からない…