第3章 苦しみと決意と
『……ねぇ、治。先刻から何を怒ってるの?』
不意に奏音の口から零れ出る。
その後慌てて口を抑えるが、一度吐いた言葉は戻ってはこない。
「……手前ら、ンな風に呼び合う仲だッたか?」
中也の質問も最もだ。
中也が奏音を見詰め、奏音は太宰を見詰め、太宰は何処か上の空。
このままでは、埒が明かない事など、その場にいた誰もが理解していた。
「…………君たち。此処が何処か解っているのかね?」
今迄口を噤んでいた鷗外が漸く言葉を発す。
『すみません。』
鷗外の声に逸早く反応した奏音は屈んで片膝を地に着け、頭を下げた。
それに続いて中也、太宰が同じ体勢をとる。
「顔を上げ給え。以後気を付ける様に。
…奏音ちゃんは残りなさい。」
鷗外の一声でその場はお開きになった。
◇◇◇◇
『…お父様、ごめんなさい。』
二人が退出したのを確認して、奏音は静かにそう告げた。
「良いのだよ。それより……
太宰くんとの仲直りはしたのかい?」
『一応…出来たとは思うんだけど……
何であんなに怒ってたんだろう…』
すると、鷗外が不意に口を開いた。
「……そうか…原因は澪ちゃんだ。
太宰くんは澪ちゃんが復帰してから機嫌が悪くなった。」
『確かに、ね…
矢ッ張りちゃんとはっきりさせるべきかもしれないなぁ……』
奏音はぽつりと呟く。
「何をだい?」
鷗外は心配そうに奏音のことを見詰める。
『私、治と別れようと思って。』
奏音の口から出た衝撃的な言葉に鷗外は驚きを隠せない。
「どうしてだい、?」
『私もこっちの世界に戻ってきて、そんな浮ついた気分で居ちゃ駄目だなって気付いたの。
昨日の業と有島さんの一件もあるし。
あれは私の問題。誰も巻き込まないから、さ。』
そう告げた奏音は心を固く決めた様な表情をしていた。
すると、唐突に扉が開いて…
「奏音はそうやって相手を傷付けたくないからーってお飾りの名目をつけて、結局自分が傷付くのを避けているのだよ。」
────太宰が首領室に入ってきたのだ。