第3章 苦しみと決意と
残された二人はぽかんと口を開け、呆然としていた。
「太宰、彼奴、やるなぁ……」
作之助の少し的を外した台詞が静かにバーの空気に消えていった────。
◆◆◆◆
─────翌朝。
「本っ当に申し訳なかった。」
奏音を前にして正座をし、両手を顔の前で合わせ、彼女を拝む様にする太宰。
『い、良いけど、。
安吾さんや織田作さんに迷惑掛けるのは辞めてよね…』
顔を真っ赤にし乍奏音はそう云った。
『昨日の思い出して恥ずかしくなるからもうこの話辞めたい……』
奏音の小さな独り言を太宰は聞き逃さなかった。
「え、?私、他に何かしたかい?」
目を見開き、驚いた表情をする太宰。
────勿論確信犯なのだが。
『な、何も、してないよ。
は、早く準備しようよ、!』
奏音は必死に平然を装ったのだった。
◇◇◇◇
「いやぁ、太宰くんも奏音ちゃんもすまないね。
任務は敵の殲滅。捕虜は必要ないから。」
申し訳なさなど微塵も感じられない様な呑気な声で鷗外がそう告げる。
「ねぇ首領、何故私は東方遠征組じゃないの?
治も奏音ちゃんも前線で、中也も後方支援組で後から向かうのに。」
澪が不服そうな声を漏らす。
「まぁまぁ。澪ちゃんは仕事に復帰したばかりだからね。余り無理はさせられないのだよ。」
鷗外は最もらしい理由を口にする。
「…我慢し給え。君が仕事をしていなかったのが悪いのだろう?」
珍しく太宰が憤りを帯びた声を出す。
『太宰さん。それは云い過ぎです。
澪ちゃん、此方も体制が悪くなったらお願いしますね。』
そう云って奏音は微笑む。
「うん!ありがとう、奏音ちゃん!」
その後、澪は中也に云われるがまま、黒蜥蜴の本部へ向かって行った。
「奏音、ありがとうな。
彼奴、あァ云い出したら止まらねェのに。」
『…何故中也が謝るの?』
奏音は素朴な疑問を口にした。
「あー、それはだな…
「中也が澪を育てたから、でしょ。」
っておい、太宰、手前ッ…!」
云い淀む中也を尻目に太宰はツンとした口調で云い明かした。
その後、太宰も中也も沈黙し、微妙で気まずい空気が停滞する。