第2章 悪夢
─────お父様っ……!』
そう云って奏音は鴎外に飛び付く。
「ははっ、長い時間離れて居たからね。
結構くるものがあっただろう?
それと、敬語も外せばいい。2人だからね。」
鴎外は自らの胸をトントンと叩いて見せる。
『うんっ…
ずうっと特務課の監視下だったもん…
息苦しかったよ…。
もしあの時、お父様が手紙をくれなきゃ…』
「でも一度は断ったじゃないかい?」
意地悪な顔でそう云う鴎外は全て解っている様だった。
『あ、あれは……
素直に応じられなかったと云うか…
は、恥ずかしかったと云うか……』
少し頬を赤らめ乍言葉を濁す奏音。
「ははっ、勿論解っていたよ。
奏音の事だから、いきなりは素直になれないんだろうなと予想はしていたからね。」
そう云って笑う鴎外は愉しそうだった。
「それで?太宰くんとは上手くやっているのかい?」
『…うん!やれてるよ!』
答えるまでに少しの間があったのを鴎外は聞き逃さなかった。
「そうでも無いみたいだね。
明日の夕刻から彼は東方遠征だから、それまでに仲直りをしたいならしときなさい。」
愛娘を心配し、慈しむ様な目。
こんな優しい眼差しを向けられるのは奏音だけだろう。
『うん…そうする。
ありがとう、お父様。』
安堵の表情をうかべる鴎外。
だがその表情の裏には複雑な感情が入り交じっていた。
「じゃあ本題だ。
今朝見た悪夢のこと、私に話せないかい?」
その話だと思った。と云わんばかりの顔で奏音は鴎外を静かに見詰め返す。
『…話すことは出来るけど………
……解った。話すよ。』
鴎外の放つ気迫に押され、渋々話し出す奏音。
『実はね…
「やだなぁ。僕と奏音の秘密でしょ?」
か、業、?!』
突如、彼女の話を遮る様に業が"扉を開けること無く"奏音の執務室に現れたのだ。
「業くん。久しいね。」
鴎外は表情一つ崩さずに業に話し掛ける。
「ふんっ…白々しい。
僕のこと殺しておいて良くそんなこと云えたよね。」
業は鴎外を睨み付け乍、奏音の腕を掴む。
「奏音。矢ッ張り帰ろう。
君はここに居ちゃいけない。
そうですよね、有島さん。」