第2章 悪夢
「あははぁ…見付かっちゃったかぁ。」
そう苦笑いし乍、銅褐色の髪に紅眼の男の子が薄汚いビルの間から出てきた。
「当たり前だ。私にあんな手紙を出して。
……どう云う心算だい?」
「え?そのままの意味だよ。
────このままだと奏音は僕のモノだ。」
そう云った業は飄々としていた。
得体の知れない余裕を抱えている様な。
「…君は昔から何処か私に似ていたから苦手なんだ。
そろそろ諦め給え。奏音は闇を生きる人間。
どれだけ頑張った所で、光の当たる場所では生きていけないんだ。」
太宰は業を宥めるように優しく喋る。
目の奥は遠い遠い過去を懐古している様でもあった。
「似ていた、ね。
そりゃそうだろうね。僕は奏音が欲しかった。だからあの娘が当時惚れていた……
太宰君、君を真似たんだから。」
「太宰君、か。懐かしい響きだね。
まぁ…確かに君の方が立場は上だったから間違ってはいないのだけど…」
自分より歳が下の子に太宰君と呼ばれたのが軽く癪に障ったのか、唇を尖らせる太宰。
そんな太宰の様子を気にも留めず業は話を続けてゆく。
「…あ、そうだ。一つだけ良い事を教えてあげる。君の同僚、命空々逃げ切れたみたいだね。流石ポートマフィア。優秀な人材が揃えられてるんだねぇ。」
言葉の上面だけを捉えればポートマフィアを褒め称えている様だが、彼の口調は皮肉や憎悪に塗れたものだった。
「…矢張り爆弾が仕掛けられて居たか。
そりゃそうだろうね。中也と澪なんだ。二人はポートマフィアの中でも傑出して優れているから。」
得意気な顔で話す太宰だが、その表情には安堵の色が見受けられた。
「逃げられる事も想定内さ。
僕はそんなに莫迦じゃない。
それは太宰君、君が一番良く知っているだろう?
そしてこれで終わりじゃない。
寧ろ始まりに過ぎない。
これはショータイムの幕開けだ。
そしてこれは僕の紡ぐ素敵な物語の序章さ。
期待しているよ。
────僕の一番弟子さん。」
そう告げて業は立ち去って行った。
「……何故こうなってしまったのだろうね。
私も、業君も、彼女も………。」
太宰の悲しそうな声は虚しくも塵の様にはらはらと宙に舞って消えたのだった。