第2章 悪夢
「な、なんだい太宰君。」
「奏音ちゃんを幹部にすべきです。」
「如何してだい?」
鴎外はニヤリと口の端を上げる。
まるで太宰が提案してくることを予期していたようだ。
「先刻の様な事を防ぐ為に。
奏音ちゃんには幹部になる実力も知能もある。これこそ最適解じゃないですか?」
太宰にとって真剣な問題だったのだろう。硬い表情を崩さぬまま敬語で喋り切ったのだ。
『…太宰さん。気持ちは嬉しいけど…
幹部なんて私には無理ですよ。そんな器は持ち合わせてませんし。』
先刻の事なんて気にもしていなかった奏音は、別の提案を持ち出す。
「数日考えよう。私も様々な状況を考慮した上で決断を下したい。」
鴎外の一言でこの話はお開きになった。
「中也ー!!!」
突然執務室の外から中也の名前を呼ぶ声が聞こえた。
『…ひやぁっ!』
いきなりの事で驚いた奏音が素っ頓狂な声を上げる。
「ッたく…外で待っとけつったのに…」
少々呆れ顔で外に顔を出す中也。
「遅い!何時まで私待たなきゃならないの?」
外からはその少女が怒っている様な声が聞こえる。
「その声は…澪ちゃん?!澪ちゃんかい?」
鴎外も椅子から立ち上がって扉の方へ向かった。
部屋には太宰と奏音だけが取り残される。
『澪、?そんな子の名前、聞いた事無かった…』
奏音の独り言がポツリと部屋に零れる。
「君が此処を離れてる時に拾った子だからね。
割と愛されてる子だと思うよ。
まぁ何より強いし、ね。」
そう太宰は不敵な笑みを浮かべた。
『…嫌な予感がしない?
────ねぇ、治。』
「ふふっ…私もだよ。
さすが奏音。気が合うねぇ。」
二人きりの空間を逃さぬ様二人は片手を握り締め合う。
「久しぶりじゃあないか。治、だなんて。」
未だ見せた事の無い程の優しい笑みを浮かべて奏音の頭を撫でる太宰。
『だって……みんなの前だと、呼べないんだもん…』
奏音も太宰には完全に気を許しているからか、口調が大分幼くなっていた。
「……この時間が永遠に続けば良いのに……」
太宰の叶わぬ独り言は静かに虚しく消えたのだった───。