第2章 悪夢
突如首領室の外が騒がしくなる。
「おい!お前、首領の許可があっての入室か?!おい!止まれよッ!」
怒号に混じって軽い発砲音までする。
鴎外は頭を横に振りながら首領室の扉を開けた。
「何やら騒がしいが?室内には幹部数名も居るのだがね。警備はもう少し静かにし給え。」
先刻の柔らかな表情は何処にも無く、
一組織の長としての表情がそこにはあった。
そんな混沌と化した状況の中、涼しい顔をした少女が一人顔を出した。
『…森医師。遅くなって済みません。』
そう。奏音だったのだ。
「あぁ!奏音ちゃん!大丈夫だったかい?
どんな悪夢だったんだい、?!」
自ら腰を落として奏音の目線に合わせ、
「さぁ、入って。特別な紅茶でも準備しようか。」
何処かの会社の重役を接待する様に鴎外は奏音の背中を支え乍、首領室の中に入ろうとした。
「首領!その人、許可があっての入室なんですか?!」
彼女に怒号を浴びせた黒服の男が、一歩進み出て意見した。
「…誰に向かって口を聞いて居るんだい?私が良いと云って居るんだ。勿論許可があるに決まって居るだろう。」
そう言い放って鴎外は重厚な扉を閉めた。
「災難だったね。大丈夫かい?」
鴎外は奏音の頭を撫でながら紅茶を出した。
『良いんです。彼、私の事を知らないんですから。』
奏音は撫でられた所をもう一度手櫛で梳き乍答える。
「…ところで、悪夢の方はどうだったんだい?詳しく説明出来るのならして欲しいのだが。」
鴎外のこの一言で空気ががらりと変わる。
『…過去のトラウマについてです。詳しくは…云いたくありません。ま、まだ云え無いんです…』
奏音は目を伏せ、項垂れ乍そう答えた。
「デリケェトな問題に首を突っ込んで悪かったね。また君が云いたくなったら云い給え。良いね?」
鴎外はそう云って優しく微笑み、椅子に凭れ込んだ。
「森さん。提案があります。」
静寂を最初に破ったのは太宰だった。
太宰から飛び出た真面目な口調に全員が驚きを隠せなかった。