第2章 ややの誕生
「おお、柚、良くぞ真田の嫁として、元気な男のややを産んでくれた」
何時もは、厳しい面立ちの昌幸様が、柔らかな笑みを浮かべて、わたしの腕の中のややを見て言った。
「柚さん、お疲れ様。立派な男のややを産んでくれてありがとう」
信幸様は、何時もよりも、もっともっとお優しいお顔で言って下さった。
「幸村、目元と鼻はお前にそっくりだ。お前は、母上に似ているから、この子も大きくなると母上に似てくるんだろうな」
皆様の愛情を一心に受けて、この子はきっと幸せに育っていくのだろう。
わたしの目から再び大粒の涙がぽろぽろと落ちて来る。
そんなわたしを見て、信幸様が言った。
「柚さんも、疲れているだろうから、俺と父上は退散した方が良さそうだね。柚さん、呉々も無理をしてはいけないよ」
「ありがとうございます」
わたしがそう言うと、
「父上、兄上本当にありがとうございます」
幸村様がそう言って、手を付くと、深々と昌幸様と信幸様に頭を下げられた。
昌幸様は、静かに頷くと、信幸様と共に部屋を出て行かれた。
廊下をまた、パタパタと走って来る足音がする。
「柚、俺と先生も入っていいか?俺たちにも、ややを見せてくれよ」
「何が俺達とか言ってんのさ。佐助が一番見たかった癖に」
どうやら、佐助くんと才蔵さんが来たようだ。
「佐助、才蔵。俺達のややを見てくれ。強くて賢こそうな男のややだ。きっと、立派な武士になるぞ」
襖が開く。
佐助くんと才蔵さんが部屋に入って来た。
佐助くんがパタパタと走りよって、わたしの腕の中のややを覗き込んだ。
「小さくて、可愛いなぁ、柚、俺も抱いてもいいだろ?」
「佐助、やめときな。ややがもう少し、しっかりしてからにしな」
才蔵さんが、佐助くんに言った。
けれども、才蔵さんの声は、とても優しい。
「いいぞ。佐助、抱いてやってくれ」
幸村様は、わたしから、そっと、ややを受け取ると、佐助くんに抱き方を教え、佐助くんに抱かせた。
静かに寝ていたややが、突然大きな声で泣き出した。
わたしは、ややを受け取ると、お乳をあげようと、着物の袂を緩めようとした。
「なっ!!柚!!」
「さ、才蔵!!佐助見てはならぬぞ!!!」
「はいはい。行くよ。佐助」