第49章 スタートライン!❥伊達政宗
約束の時間になって。
前からひとりの男性が歩いてきた。
(あ、きた、関原さん)
その男性はもちろん3日前とはなんら変わりのない姿で歩いてくる。
そして私の目の前までくるとあの人聞きの良さそうな笑顔を浮かべた。
「どうですか。考えていただけましたか?」
「はい、しっかり考えました。」
私が答えると関原さんはまた大きく笑顔を浮かべた。
「そうですか。では緊張しますが...お返事を聞かせて頂いて大丈夫ですか?」
「はい、このお仕事....」
ひとことずつ噛みしめるように言葉を紡いでいくと、ゆっくりと言葉を発するのと同じように頭の中で政宗と話したことが走馬灯のように広がる。
『お前のすることはいつだってうまくいく。』
そう言って笑った政宗の顔が鮮明に浮かび上がってきた。
それにおのずとあたたかい気持ちが心の中に広がる。
(....うん、そうだよね、わたし、やってみるよ。)
全部が全部うまくいくわけではないことは私もよく知ってるし、きっと政宗だってよく知ってると思うけど。
でも、私は。
政宗がそう言ってくれたら、なんでもできる気がするから。
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二ヶ月後。
「思ったより重いなこの荷物....」
私は久しぶりに安土の道を踏みながら安土城へと戻っていく帰路についていた。
両手で必死に持っているのは、景品の反物だ。
あの返事のときに、良い返事を関原さんに返すと、飛び上がって喜んでもらって。
それからもう政宗と話す暇もなく大阪に行って、そのコンテストを受けた。
結果は、
いわゆる、準優勝。
私も必死に手を加えたつもりだったけど、私以上に丁寧に、すばらしい着物を作り上げた人が優勝した。
それに対しては関原さんも賞賛の言葉を送っていたし、私にもすごく感謝してくれて。
また来てほしい、とにこやかな笑みを浮かべて言われると私も間髪入れずにはい!と言ってしまったから少し驚かれたけど。
でもそれでも。今回のことはすごくすごくいい経験になった。
政宗が言ってくれなかったら、きっとこんな体験はできなかった。
(...政宗。)
そんなことを思い返してみると、政宗に、無性に会いたくなった。