第48章 縮まらない温度。❥真田幸村
二人は仲良さそうににこにこと笑いながら話を楽しんでいる。
私がこんなに近くにいるのに、幸村さんは気づかない。
(っ、なんで...)
ふらふらとめまいがしそうだった。
さっきまで必死に着物を悩んでいた自分が馬鹿らしく思えた。
あんなにるんるんでお化粧をしていた自分に頭突きをしたいくらいだった。
幸村さんは私と....逢瀬をしたいわけじゃ、無かったんだ。
(...やっぱり、やっぱり私じゃ、)
駄目なんだ。
そう。
幸村さんの隣に並ぶべきはお姫様じゃないと駄目。
私みたいな、下の方の女中じゃどうしても雪村さんとつりあわないんだ。
(っ、分かってた、わかってたけどっ....)
辛い。
その三文字が頭の中を支配して...
気づいたときには、その場から走り去っていた。
走って走って、幸村さんの姿が見えなくなるまで。
とにかく走った。
そしてようやく幸村さんから離れた場所にある昼間でも暗いような小さな道を見つけて、うずくまる。
そして自分の膝に顔を埋めて必死で涙が出ないように抑えた。
(....っどうしたらいい、どうしたらいいの?)
それでもさっきの光景を見た私の頭の中は混乱して、ぐちゃぐちゃになっていた。
私は深呼吸をひとつしてゆっくりと波立つ心を落ち着かせる。
(...幸村さんが私を誘ったのは。)
私と会うためでも、お茶するだけでもなく。
雪さんを紹介するため、だった??
信じたくない。信じたくない。
幸村さんは私だけを見て誘ってくれたんだと思っていた。
でも、そう考えるとすべての辻褄が合うんだ。
私とよく関わりのある雪さんと幸村さん。
幸村さんが雪さんとの関係を持って、長い時間は過ごしていなくても、よく話す私に紹介したいと思うのはきっと普通のことだ。
(....あぁ、ほんとに、馬鹿みたいだな、私。)
幸村さんはもともと私を誘ってたんじゃなかった。
幸村さんは、私を通して。
別の誰かを、見ていたんだ。