第48章 縮まらない温度。❥真田幸村
ここまで仲良くなった幸村さんをどうしても振り向かせたくて。
私はその日から毎日話しかけていた頻度を、どんどん上げた。
一ヶ月後。
今では午前中と午後に一回ずつ幸村さんに必ず話しかけるのが日課となっていた。
幸村さんの目に私が映るように。
雪さん以外の人物が、映るように。
すると、今まで雪さんしか見ていなかった瞳が、ようやく私の方へ少しづつだけど、向くようになった。
そして、今日は。
「お、華、今日暇か?空いてたら午後に茶屋に行かねーか?」
「!!」
なんとなんと。
お誘いを受けた。
「っ、はいっ!!行きます!」
そう笑顔で返事すると幸村さんもニコッと笑う。
多分その時の私は目がキラキラと輝いていた自信がある。
それに膨らんでいく期待が収集もつかなくなった。
(幸村さんはやっと私を見てくれたの?)
これまで長く募らせてきた思いがようやく少しだけ先の未来へと繋がった気がして胸の中のわくわくが止まらなかった。
そして、午前中は他の仕事をほっぽりだしてまで着ていく着物に悩んだ。
(んー、幸村さんは赤が好きそうだからこの派手な赤にする?いやでも確か幸村さんは質素なものが好きなんだよね....)
まだ行ったわけでもないのにこの時点から楽しくて楽しくて仕方なかった。
結局、選んだのは明るい赤の生地だけど、それでいて上品さを失わないもの。
幸村さんの雰囲気にぴったりだと思うものを選んだのだ。
下駄を履きながらわくわくと胸が踊る。
(幸村さんこの格好なんて言ってくれるかな、....褒めて、貰えるかな。)
そんな期待を胸に茶屋へ向かうと....
しんじられない光景が、目に飛び込んできた。
もちろん、茶屋に幸村さんはいた。
でも、もう座って誰かと話をしている。
鞄を持つ手が震えた。足も震えた。
(あ、れは....)
そうそれは紛れもない。
雪さんだったから。