第44章 トドカナイオモイ『前編』❥豊臣秀吉
私がついていった先は、秀吉さんの部屋だった。
秀吉さんは入るようにそっと襖を開けて私を促す。
それに従って私はそっと中に入った。
部屋の中に座ると、秀吉さんが私の前に座る。
そして口を開いた。
「さて、早速だが....お前に言わなければならないことがある。」
「っ....」
何を言われるのか大体検討がついていた私はそっと膝の上にある手を握りしめた。
「.... 華も知ってると思うが、大名のことだ。」
(ほらね。)
私は心の中でひとつため息をつく。
これから怒られるのだろう。
もしかしたら名前を変えろとまで言われるかもしれない。
(いやいや流石に秀吉さんはそんなこと言わないでしょ...)
自分の思った言葉に自分で反論していると...
秀吉さんが真面目な顔で私を見つめた。
そして、苦い顔で私に告げる。
「華は不服かもしれないが....俺と、祝言を挙げてほしい。」
「はい、ごめんなさ....え!?」
怒られると思っていた私は考えていた言葉と違う言葉が秀吉さんから飛び出して思わず目を見開く。
すると秀吉さんも申し訳なさそうに私を見た。
「お前は....大名に会って、名前を告げただろ。」
「う、うん。」
「実はその大名が安土城と深い関係のある大名だったんだ。だから...もともと考えていた俺と華の祝言を、お前と挙げることにした。」
(え?祝言??もともと考えていた?)
秀吉さんの言葉に頭がついていかずにただ秀吉さんを見つめる。
すると更に秀吉さんは眉を寄せた。
「ごめんな。お前もこんな祝言嫌で、想い人もいると思うが....この祝言は仮だ。どうか一日だけ俺の嫁になってくれないか。」
「っ....!」
その秀吉さんの言葉にふいに溢れそうになる言葉。
(っ、嫌なんかじゃない。想い人なんて、秀吉さんしかいない。)
それを今伝えてしまったらどれ程楽になるだろうか。
でもきっと、それを伝えても誰も幸せになれない。
そう思った私はその言葉をすんでのところで留めた。
「っ、うん。いいよ。」
するとするりと滑り出した言葉。
「秀吉さんなら、いいよ。」
「!」
その言葉に秀吉さんが目を見張ったのが分かった。