第44章 トドカナイオモイ『前編』❥豊臣秀吉
(もう全部が嫌な方向に向かってるな。)
そうは思いつつも私は絶対に針子部屋に行くことをやめない。
華ちゃんがいることは少し気にかかるけど、それでも周りの針子仲間は私の大切な友達だ。
そんな子達と一緒に仕事をすることもまた私の活力になっていた。
そして、その日もいつものように作業をしていると....
「... 華、いるか?」
「!」
針子部屋の襖が開けられて、誰かの声が部屋に響いた。
みんなが一斉にその方向を見る。
私もその声の主を確認して一瞬固まった。
(...秀吉さん、)
心の中で名前を呼ぶも、私はすぐに下を向いた。
もちろん、合わせる顔がないのもそうだが...
きっと秀吉さんが探しているのは、私じゃない方の、"華"だから。
そう思って俯いていると、針子部屋の奥から誰かが襖の方に近寄る音。それとともに軽やかな声が聞こえた。
「秀吉さん!」
(っ、)
そう言う彼女の声は、私と話していたときとは別人なくらい明るい。
そして、今度は嬉しそうに聞こえるであろう私ではない私を呼ぶ秀吉さんの声を想像してぎゅっと目を瞑ると....
「ごめん、華。今日はお前の用じゃないんだ。」
「!」
「!」
その秀吉さんの声に華ちゃんは驚いた顔をする。もちろん私もそうだった。
すると次に秀吉さんがあたりを見渡す気配がして...
どんどん"私"に近づいてきている音がした。
そしてその足音は私の前でぴたっと止まると、そっと声を出した。
「華、顔を上げてくれ。」
「!!」
(え、わた、し?)
その言葉に恐る恐る顔を上げると...
いつもの笑顔を浮かべた、秀吉さんの姿があった。
「っ、!」
久しぶりに見る秀吉さんの顔に熱が集中していく。
だけど秀吉さんはそんな私にお構い無く私を立ち上がらせた。
「なぁ華。今日はお前に少し話があるんだ。ついてきてくれるか。」
「....はい。」
きっと大名の話だろう。
どれだけ怒られるのだろうか。
私はそう思いながらも大人しく素直に秀吉さんについていった。