第44章 トドカナイオモイ『前編』❥豊臣秀吉
筈だった。
だけど、どうしてもさっきの華ちゃんの言葉が胸に刺さる。
(何を期待してるって....何も、期待してない、よ。)
嘘だ。
そこまで思って私ははっと目を見開く。
心の中の自分の声が、真っ直ぐに耳に聞こえてきたからだ。
私は秀吉さんの恋仲じゃない。
だけど、何かを期待していた。
(期待....??何を?)
自分でも分かってるくせに。
(っ、分からない。私は何も期待なんてしてない。)
それも嘘。
私は期待してた。
「ち、がう」
同じ名前の子が恋仲になって、立場が入れ替わることによって。
「ちがっ...」
私が、秀吉さんと恋仲に....
「っ、違う!!」
私はそこで強制的に自分の"心の中のこえ"を閉め出した。
「.... 華、ちゃん?」
「!」
私がはっと顔を上げると、皆が驚いたようにこちらを見ていた。
きっと私が大きな声を出してしまったせいだろう。
「っあ...ごめん、急に....」
私は肩を落としながら自分のもとの位置へとふらふらとした足どりで戻った。
その影で、"恋仲"の華ちゃんがにやりと笑っていたのを見落として。
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あの一件があってから、私は私じゃない方の華ちゃんと話す事を拒むようになってしまっていた。
もともとかなり仲が良かっただけに、前に言われた言葉は胸の中に刺さるように残っている。
そして、向こうも....前とは違う、敵対した目線をたまに向けてくるようになった。
(...こんなことがしたいわけじゃないのにな。)
私は華ちゃんと仲良くしていたかった。
こんなふうに友情にヒビが入ることになるなんて、何にも予想していなかった。
(...秀吉さんとも、ずっと話せていないし...)
あれから秀吉さんが私の前に姿を見せることも少なくなった。
(きっと、幻滅されたんだ。)
そりゃそうだ。好きでもない、ただ好きな人と同じ名前の女と恋仲にされて、秀吉さんも嫌になったのだろう。