第41章 伝えられない真実『後編』❥徳川家康
「馬鹿だなっ....」
ぽつりと放った言葉。
それは華に向けてではなく、自分に向けた言葉だった。
俺がもっと早くあの子に素顔を見せていたら。
俺がもっと早く声をかけていたら。
俺が、馬鹿みたいな仮面を外して、逢いに行っていたら。
「何か、違ったのかっ...?」
そう呟いた声は誰にも聞こえることなく消えていく。
「....あんた。」
その時、お爺さんの声が聞こえた。
その声に力なく顔を上げる。
するとお爺さんはそっと俺の肩を持った。
「華の...墓に来るか。あんたには、あの子に見せたかったものがあるんだろう?」
「!」
俺は驚きで目を見張る。
どうして分かったのか。
「っ、はい。俺は華に、見せたいものがありました。」
「じゃあそれを持って来なさい。華のところへ行こう。」
「っ...はい。」
そして。
俺は庭園に帰ってあの花をひとつ折った。
薔薇なのに棘がないから折りやすい。
(...全部、全部、あの子の、ために....)
そんなことを思いながらまた村へと戻っていく。
途中で色んな人にじろじろと見られたが、きっと涙を流しているからだろう。あの徳川家康が涙を流すなんて、みたいな感じだろう。
だけど俺は心の中も頭の中も華で占められていた。
(逢いたい....っ、もう一度だけ、あの笑顔をっ....)
そして村につく頃には更に涙で顔がぼろぼろになっていた。
そんな俺を見て待っていたお爺さんはそっと頭に手を置く。
「...来るか。」
そして俺の手に持っていた花を一瞥すると、一言放った。
「っ...はい。」
「ここに、華がいる。」
そういって連れられてきたのはひとつの棺桶だった。
「この中に、華が、いるんですか...」
「あぁ。開けていいよ。」
「っ...」
俺はそれへと手を伸ばそうとして一度止めた。
華の姿を見てしまったらもう踏ん切りがつかなくなってしまうのではないかと。
怖くなったのだ。
そんな俺を見透かしたのかお爺さんはぽんと俺の背中をさすった。
「....大丈夫。」