第41章 伝えられない真実『後編』❥徳川家康
「な、んで...?」
お爺さんはその声には答えず、その先を話した。
「あの子は...昔から両親に見放され貧乏で、食うのにも難しい日々が続いておった。だから俺が助けてやったんじゃ。といっても食い物を与えるだけだったがな。でもそれでもあの子の生活はかなり良くなった筈だ。だが...あの子の目に光が戻ることはなかった。」
お爺さんの声が遠くで聞こえる。
だが頭だけはこの話を必死に聞こうと意識を傾けていた。
「だが、ある日を境にあの子は変わった。目に光が宿るようになったんじゃ。その訳を聞くとな...優しい『いえやすさん』が居るからだとあの子は答えた。俺がどんな人か聞くと、エメラルド色の瞳を持つ人だと。」
(それは...俺、?)
確かに俺はエメラルド色の瞳を持っていた。
お爺さんは更に話を続ける。
「そして...いつかは『いえやすさん』に顔を見せて貰うんだと意気込んでいた。そして亡くなったあの日は...あんたに手紙を持っていこうとしてたんだよ。」
「て、がみ...?」
そう言うとお爺さんは懐からごそごそと何かを取り出して俺に渡した。
「これはその『いえやすさん』に渡そうと思っていたんだ。君が....そうなんだろう」
「....」
俺は何も言えずにそれを受け取る。
それにはピンク色の封筒に表に『家康さんへ』と書かれたシンプルなものだった。
「...あのときは結構酷かったんだがな、その手紙だけは無事だったよ。」
手紙を持つ手ががくがくと震える。
これを見てしまったら...俺はもうきっともとには戻れない。
思わずその手紙をぎゅっと抱きしめた。
するとあの子の、何か温かいものが伝わってくる気がして...
視界がまた滲んだ。
「...読んでおあげなさい。」
しばらくそうしていると。
お爺さんから一声かかった。
「あんたに読んでもらうために生まれたその手紙を、今読まずにどうするんだい?きっとあの子も喜ぶさ。」
「っ...」
(確かに...そうだ。あの子がいなくなったからと言って....逃げるのはもっと駄目だ。)
未だに滲み続ける視界をぐっと押しとどめて、俺はそっと華からのその手紙を開いた。