第40章 伝えられない真実『前編』❥徳川家康
その日を境に。
俺はあの子のために必死に花を作り始めた。
まずは花を作るために庭園の花たちの遺伝子を取り出して勾配させるところから始めた。
それでも、素人は素人。
(くそっ、上手く行かない....っ)
分からないことが多くて....何回も辞めようかと思った。
でもその度に思い浮かぶのは...
あの女の儚い笑顔。
いつもいつも花を取っていくたびに見るあの笑顔は、今は俺にとってはかかせないものになっていた。
そして、その日の夜も。
その女は花を摘み終わったあとに、なんと俺のもとに来た。
俺は慌ててフードを深くかぶって自分の顔を隠す。
なぜなら...これまでの憎悪や、憎しみなどで、自分の顔が醜くなっているのは分かっていたからだ。
すると....
「あの...いつも、ありがとうございます」
その女は躊躇いがちに俺に笑いかけた。
(っ....)
初めてと言っても過言ではない、声。
それに否応なしに心臓がドキドキと高鳴っていく。
(....でも。)
たとえ俺が手を出すのをやめたとしても、自分の盗んでいるものを片手に主に近づくものなのだろうか。
「何いってんの、あんたが盗んでるんでしょ?」
それに思わず声が出る。
「!」
すると相手は一瞬驚いた顔をして今度は困ったように眉を寄せた。
「あー、確かにそうなんですけど...その、いつもありがとうございますっていうお礼というか...」
いきなりしどろもどろになる女。
相変わらずのぼろぼろの服なのにやはり目だけはきらきらと輝いている。
それに何だかおかしくなった俺はつい吹き出した。
「ふっ...なんなのそれ、盗んでる相手に普通お礼なんて言わないからっ...」
言っている間にも笑みが溢れる。
「..へへ、そうですかね?」
そうしたらその女もつられたように笑いだした。
(...っ)
初めて見るその笑顔。
それにまた心臓が高鳴る。
そしてその女は更に言葉を付け足した。
「家康さんは...優しいんですね。」
「!!」
(...優しい?俺が?)
これまでずっと人を憎んで生きてきた俺が、
優しいのか?