第40章 伝えられない真実『前編』❥徳川家康
これまで感じてきた、妬みや、怒り。
そんなどす黒い感情ではなく。
そのどれにも似つかないもっと温かいものが自分を包んでいっているのが分かった。
(なんだ....この気持ち。)
真夜中に、一人マントを羽織ったまま立ちすくむ。
外は夜中で冷たい風が吹いているはずなのに...
心の中だけは、温かい風が吹いているようだった。
そして、それからも毎日毎日。
その女は花を摘みにやってきた。
そして、俺もそれを咎めるようなことはしなくなっていった。
それに気づいたのか、その女は毎回花を摘むたびに、俺にひとつ笑いかけてから出て行くようにしていた。
そして、俺も。
その女が出ていったあとの刈られた花たちを見ても、何も思わなくなっていた。
それどころか、そこに新しい花を埋めて、その女がここにまた来るのが...楽しみになっていたのかもしれない。
そんな日々が毎日続くうちに。
俺は自分の中である答えをだそうしていた。
(俺がこんなにあの女のことを気にかけるのは....きっと、俺があの女のことを...)
俺はそこまで思ってはっとする。
きっと、他の人から見たら馬鹿だと思われるだろう。
泥棒同然の女のことを想う、なんて普通の人には考えられない。
だけど...俺は気づいてしまった。
自分がこんなに、愛する、ということに飢えていた事を。
幼い自分の記憶から考えても。
きっと俺は誰かを愛したかったのだろう。
これまで受けてこなかった愛を、自分が注いでみたい。
そんなふうに思っていたことに。ようやく気づいたのだ。
そして俺は、ある大きな決断をした。
(あの女のために...花を作ろう。)
今まで誰も見たことがないような...
すごく綺麗で、眩しくて、俺には似つかないと分かっているのに、引き寄せられてしまうような、そんな花を。
そうしたら、きっとあの子の暮らしも楽になる。
そして...あの子の暮らしが楽になったら、少しだけでもいいから、話してみたい。
その口から言葉を紡ぎだされるところを見てみたい。
花なんて作ったことがない。
何をしたらいいのかさえもわからないけど...
今は、あの女のためなら、何でもできそうな気がした。