第40章 伝えられない真実『前編』❥徳川家康
そして耳を澄ませると、小さな声が真夜中の風に流されて聞こえてきた。
「ごめんね、こんなに綺麗なのに....許して、許して....。」
そして、一度花に笑いかけて、そっとその茎を折る。
(謝ってる、のか?)
もしかしたら、好きで花を摘んでいるのではないのかもしれない。
もしかしたら、やむを得ない理由が....?
俺は泣きながらその言葉を紡ぐその女に一段と興味を持った。
そして、俺は女に気づかれないようにおもむろに立ち上がると...
この暗い世界に馴染むような、真っ黒なマントを羽織って、闇に溶け込んだ。
あの女の行き先を、追いかけるために。
その女はいつもどおりに花を刈り取ると、塀をよじ登っていく。
俺はその後をバレないように静かにつけていった。
そしてそっとついていった先には...
(質屋?)
暗闇に佇む、一店の質屋だった。
確かこの店は特殊で、昼間はやっていないのに夜の間だけやっている店だ。
なのに繁盛しているのか、潰れることはない。
その店に女は花を詰めた鞄をもって駆け込んでいく。
(何をする気なんだ....?)
俺はその近くにひっそりと身を潜めて待った。
そして、10分後...
満帆に花が入っていたはずの鞄は何も入っていないかのように小さくなり、代わりに彼女の手にきらりと光るものが握られていた。
(あれは....金貨?)
金貨といっても、この国で一番価値の低い金貨、数枚がその女の手の中に握られていた。
そしてその女はそれを握りしめてひとつため息をつく。
その姿が思ってたより憂いを帯びていて...
思わずごくりと生唾を飲んだ。
そして、その数枚の金貨を握りしめて、ぼろぼろの服で去っていくその女を見て、俺は悟る。
(この女は...俺の花で生計を立てていたのか...?)
きっと何らかの理由でどこにも雇ってもらわれず、彷徨っていたところに辿り着いたのが俺の庭園、といったところだろうか。
(この女は、俺の花で、生きているんだ。)
そう思った途端、今まで抱えてこなかった感情がぶわっと胸の中に広がった。
(なんだか....不思議な気持ちだ。)