第40章 伝えられない真実『前編』❥徳川家康
(もしかして、めちゃくちゃ貧乏とか。)
それなら花を盗む理由もなんとなく分かるが...
(いや。そんなわけないな。)
俺はその自分の意見を自分で打ち消した。
たしかに、格好こそはみすぼらしかったが、その風貌や声からは何か上品を感じさせられるものがあった。
そして...
俺には眩しすぎる、太陽のような目の輝きさえもあった。
夜でも分かるほど輝いていたあの目。
たとえ盗みを犯していたとしても、まん丸に光っていたあの目を見ると、貧乏という判断はつきにくそうだった。
(じゃあ...何だ?見せびらかしたいとか?)
女というものはキラキラしたものと綺麗なものなら何でもいいんだろう。
俺が育てている綺麗な花を他の人に自慢したいというのなら、多少は同情の余地がある。
(俺の花はほんとに良い。)
俺の波だった心さえも落ち着かせてくれる花たちだ。
自慢したい気持ちもわかる。
(...まぁ俺には自慢する友達なんていないんだけど。)
別にそんなことはどうでもいい。
今重要なのは、あの女が何を考えているかということ。
もし、自慢するだけだった、という理由だったなら。
少しは同情したとしても、俺は絶対に許さないだろう。
なんてったって、5年くらい前からずっとともにいるんだ。
それを荒らされたときの気持ちなんて、きっと他の誰にも分からない。
(...こんなこと思ってるから、一人なのかな。)
誰にも分からないとか、分かるとか、そういう問題ではないのだろうか。
だけど今の自分にはこういう考え方しかできないのも、これまた事実だった。
(....こうなったのは、俺のせいじゃない。)
これまで生きてきた中で何回思っただろう。
自分のしてきたことなのに、人に擦り付けて逃げて....。
自分でも分かっている。分かっているからこそ、さらに人を近づけないようにしてしまうのだ。
(...今は、そんなこと考えないほうがいいな。)
折角この事を考えないですむ時間が来たのに。
俺は何を考えていたのか。
俺は今度こそ頭を切り替えて、目の前の庭園へと目を凝らした。