第40章 伝えられない真実『前編』❥徳川家康
(....ぼろぼろだ。)
その手は薔薇もむしり取ったからだろうか。
あちこちが血でまみれていた。
(...じゃあ計画性のあるものではない、か。)
俺はそこで妙に冷静になる。
もし計画性があってここに盗みに来たのなら、薔薇などの棘のある花のために、手袋をしてくるはずだ。
それをしてこなかったということは...
(...突発的なものか。)
まぁ、盗みたくなる気持ちは分かる。
俺の花はめちゃくちゃ綺麗だから。
(しかも、一番綺麗なのは俺が小さいときからずっと育ててる...)
話が、何だか違う方に行きそうになったとき。
「っ、ごめんなさい!!」
「!?」
その女がいきなり叫んで塀をよじ登った。
「おい、待っ....」
俺がそう言おうとするものの、その身のこなしは軽く、あっという間に塀の上まで登ってしまった。
そこで女がようやく口を開く。
「ほんとに、ごめんなさい、家康さん。だけど私には...こうするしか方法がないの。」
「!」
そう言うとその女は月明かりを背に塀の外へと行ってしまった。
(くそっ....!)
俺がよそ見をしなければこんな事にはなっていなかったかもしれない。
(あの女...絶対明日も来るぞ。)
俺はそこに何か確信めいたものを感じていた。
きっとあの女はもう一度花を取るためにこの庭園にやってくると。
(明日は一日中監視する必要があるな....。)
俺はそう思って、引きちぎられた花たちを植木に移して、寝床へと帰っていった。
だけどもしかしたら、
その時から、もう俺の気持ちは、何かをあの女に求めていたのかもしれない。
「...今日は絶対監視しとこう。」
翌朝。
俺は庭園が見えるベランダでひとり座っていた。
もちろん、隣に座ってくれるものなどいない。
(それにしてもあの女、ぼろぼろの服だったな...)
俺は不意にそう思う。
きっとあの女は俺と同じくらいの年齢だろう。
なのに来ている服が全く違かった。
そんなことがあるのだろうか。