第29章 瞳を閉じて、こっちに来て。❥豊臣秀吉
俺がその町娘を探してキョロキョロと周りを見渡していると...
「あ、秀吉様!!」
(っ、来たな。)
いつもの大声でその町娘が近寄ってきた。
そしていつものように一方的に大きな口調で喋る。
「もう、秀吉様ったら最近全然来てくれなかったから寂しかったのよ?文は読んでくれた?」
「あぁ、殆どは読んだ。」
「あ、そうなの!じゃあ話は早いわね、私と...」
「それなんだが。」
俺はその町娘の話を遮るように言葉を発す。
「俺にはもう好きな相手がいる。残念だが...お前には応えられない。すまない。」
はっきりと内容を告げる。この方が諦めやすいと思ったからだ。
すると...
「っ、それ、どういうことなのっ...!!」
いきなり町娘がひときわ大きな声を上げたかと思うといきなり涙をぽろぽろと流し始めた。
「酷いわ、秀吉様、私はこれまでずっと貴方のことだけをっ...!」
「ちょ、ちょっと待て、分かった分かった、少し落ち着け。」
(大丈夫なのかよ、これ)
動悸が荒れているその女に俺は背中をさする。
だが。涙はとまらず、嗚咽も出始めたので俺は少し優しい言葉をかける。
「女は化粧している顔を崩したら勿体無いぞ?涙は拭え。」
と、優しく言う。
「っ、そういうところが誤解しちゃうのよ。」
何か小さい声で呟くもその声は俺の耳には入って来なかった。
するとその町娘はいくらか落ち着いたのか、俺をしっかりと見据えて言った。
「はい、貴方の気持ちは分かりました。秀吉様、少しだけ、お話できませんか?」
「え...」
(こりゃまたいきなりだな。)
その急な誘いに少し驚いたが、これでこの町娘は俺の事を諦めてくれるのだと、その誘いに乗った。
「あぁ、少しだけだぞ。俺の気持ちは変わらないからな。」
「ええ。わかってます」
少し吹っ切れたのかしっかりとした返事を返したその女に俺はいくらか安心してその町娘についていった。
だけど、その判断が。
華を傷つけることになるなんて、その時は思ってもみなかった。