第29章 瞳を閉じて、こっちに来て。❥豊臣秀吉
それは、華の夢。
華が俺に向かって手を差し伸べる。
笑顔で「秀吉さん!」と、俺の名前を呼びながら。
(夢でも会えるなんて幸せだな)
もう半分夢の中に入っているのにそこだけはしっかりと思う。
でも、ふとした瞬間に溢れそうになる想い。
それが耐えきれなくなった俺はもともと返事を書いていた文に
『好きだ』
と、書いた。
この文は後で捨てればいい。
今は、この夢をしっかり堪能したいから...
そう思った次の瞬間には俺はもう夢の中へと墜ちていった。
だけど、この俺が書いたたった一言の文字。
それが、大きなことになるなんて、思いもせずに。
(ん....朝か?)
俺が次に目を開けるともう外は明るい。
(少し寝すぎたかもしれないな。)
ここまで気持ちよく寝られたのはいつぶりだろうか。
それもきっと、華が夢に出てきたからだろう。
あの夢の中だけでは、俺と華は恋仲だった。
もしこれが現実で起こったら....
「ふっ、何考えてんだか。」
そんな事、起こるわけないのに。
淡い期待を打ち消して俺は立ち上がる。そして大きな背伸びをした。
すると目に入ってくる文の山。
それについ溜息が漏れてしまう。
(何だか...面倒くさくなってきたな。)
これにいちいち返事をするのはかなり面倒くさくなってきた。
(...直接言いに行くか。)
今はそれが一番手っ取り早い気がする。
そう思った俺はその文の山を一気に抱えて外へと出ていった。
(ふぅ...なかなかな重量だったな)
その文たちを廃棄物のところに置いてきて、その町娘に会うべく城下に向かいながら俺は思う。
あんな大量の文を送ってきたところで、俺の気持ちは華にしか無いのだから。
そんなことをしても無駄だということを直接伝えたほうが良いだろう。
でも、俺がその町娘を探しているところに...
「...秀吉、さん?」
あの子の姿があったなんて、思いもしなかった。