第29章 瞳を閉じて、こっちに来て。❥豊臣秀吉
「で...私が受け取ったんだけど、何だか渡された人に早く渡してって言われて...」
俺はそこでまた察した。
(あの子か...いつになったら諦めるのか分からないな。)
最近、俺に付きまとってくるという言い方は悪いかもしれないが、とにかくくっついてくる町娘が居た。
俺に惚れただの何だのと毎回大量の文を送ってくる。
正直迷惑はしているし、華がいるから軽く交わしてきたのだが...
(もうそろそろちゃんと言わないと駄目か。)
それこそ華に勘違いされたら困る。
「秀吉さん...?」
不意に華の声が響いた。
俺が考えてこんでいるのを不思議に思ったのだろう。
それに俺は慌てて向き直る。
「あー、いや、なんでもない。それでその文はどこに置いてくれたんだ?」
「文机に置いておいたけど...」
「あぁ、そうか。じゃあすまんが俺はもう行くな。届けてくれてありがとな。」
俺はひとつ華にお礼を言うとその町娘に厳しく言うための返事を書くために部屋へと戻っていった。
その頃。取り残された華は少し考え込んでいた。
「あの見た目恋文だったし...もしかして秀吉さんと、恋仲の子だったり...?」
ひとり呟いたその声は誰もいない廊下に吸い込まれていった。
(はぁ、こりゃまた大量だな。)
俺は部屋に帰って文を見る。
ざっと20枚くらいの文が机の上に置かれていた。
ここまで来ると毎回この量を書けるのを尊敬する。
(俺には華がいるんだがな...)
まだ恋仲ではないとしても心の中にはもう華しかいない。
それをどうやって伝えようか。
(さすがに実名出すのは華に何するか分からないからな...)
うーん、と悩んでいた俺だったが...
もともとは体を酷使して帰ってきたあとだ。
体がそろそろ悲鳴を上げかけていた。
華に会ったとはいえ、そこまで体をごまかせない。
(こりゃまずいな...)
かなりの睡魔が俺を襲う。
するとおぼろげながらももう夢を見始めていた。