第29章 瞳を閉じて、こっちに来て。❥豊臣秀吉
ある、晴れた日の昼下がり。
俺は昨日から続いていた政務をようやく終わらせ、自分でも分かるほど疲れた顔をしながら廊下を歩いていた。
(はぁ、さすがに今回は疲れたな。)
かなり大きな政務だったので尋常じゃないくらい気を使ったが、うまくいった。
だが、そのせいで心も体も憔悴しきっていた。
そんなときに、頭に浮かぶのは...
(... 華)
愛しい女の顔。
あの朗らかな笑顔に会いたいと、本能的に思う。
だが...
(俺達は、恋仲じゃないからな...)
俺は自分に言い聞かせるように言う。
そう、俺と華は恋仲ではない。
だけど...普通の友達...でもないと思う。
何故なら俺にもう恋情が芽生えてしまったのだから。
だからこそ、これまでのように華と接することは厳しい。
前までは妹としか見えていなかったが...今では立派な良い女だ。
(気持ちを伝えるにもあいつ俺の事意識してなさそうだしな...)
そう思った時だった。
「あ、秀吉さん!」
「!」
今一番聞きたい声が聞こえた。
その声に俺は勢いよく振り返る。
するとぱたぱたとこちらに駆けてくる愛しい女の姿。
その女は俺の目の前まで来るとはぁはぁと息を吐きながら俺に笑顔を見せた。
「へへ、秀吉さんに会えるなんてラッキー!」
「ら、らっきー?」
俺の目の前に来るやいなや意味のわからない言葉を放つ華に目を丸くする。
それと同時に鼓動が大きく鳴りだす。
「あ...っ、ら、らっきーの意味は気にしないで!!そんなことより言いたいことがあるの!」
さっきの笑顔はどこに行ったのかいきなり焦りだす華。
(このころころ変わる表情も....好きだ。)
俺は行動に任せて頭にぽんっと手を置く。
それに華は気持ちよさそうに目を細める。
その顔に疲れていたはずの体が何だか元気になる気がした。
「で、どうしたんだ?」
俺は華が俺に会いに来た理由を聞く。
「あ、あのね、秀吉さん宛に手紙がたくさん来てて...」
(あぁ、町娘達のか。)
俺はその台詞だけで誰から来たのかを察した。