第28章 恋の魔法より貴方の愛を。❥徳川家康
「華、入るよ。」
そうは言っているものの、もう身体は半分華の部屋の中に入っている。
「っ、い、えやす」
中で驚いた声を上げる華の姿が目に入った。
「っ、華...」
(やっぱり...)
俺はそっと名を呼びながら華の頬の涙の跡を見つけた。
かなりしっかりついているから、最近のものだろう。
(ごめん、ごめん、華...)
心の中では謝るものの、それを素直に言葉に出せない。
そこで俺は魔法の力に頼ることにした。
もうかけ方は完璧に覚えている。
「ねぇ、華。ちょっと目を閉じてて。」
そして華をさりげなく誘導させる。
「え、うん。」
華は不思議そうには思ったらしいがその長いまつげを降ろして目を閉じた。
そして自分も目を閉じて魔法の言葉を唱え始める。
もちろん華に聞こえないように小さな声で。
「...今こそ魔法の力を解き放て、魔法使いの名にかけて、魔法の力を呼び起こせ、愛する者のこころの中を曝け出せ。」
言い終わってそっと目を開ける。
何か変わっているのかと期待したのだけど...
「ねぇ家康、どうしたの...?」
目を瞑ったまま俺に話しかける華の姿しか見えず。
(...何も変わってない、か。)
やはりインチキだったのだろうか。
俺は落胆して華に声をかける。
「いいよ、華、目開けて。」
「?う、うん...」
そして華がそっと目を開けたその瞬間。
『家康、本当にどうしたんだろう...』
(!!)
華の声が頭の中に響いて俺は慌てて華を見る。
だが華はきょとんとこちらを見つめるだけだ。
(まさか、これが...)
魔法の効力なのだろうか。
そう思っていると、
『家康何かあったのかな、私と喧嘩したから何か言いに来たのかな...』
今度ははっきりと声が聞こえた。
そこで俺は確信する。
魔法の効果が、現れたのだと。
(...っ、どうする?)
華の心の中はもう完全に見えるようになっただろう。
大切なのは、その先だ。