第25章 消えない想いはいつの日か。『後編』❥明智光秀
溢れ出る涙と光秀さんと呼ぶ心の中の声。
それは私の中では止まらなかった。
(さいごにっ....思い出して、くれたのっ...?)
必死に私を呼ぶ声に微かに触れた指先の熱さを思い出す。
(光秀さんっ...、光秀さんっ...!)
心の中ではいくらでも叫べた。
でも、光秀さんに対する想いは止まらない。
(っ...とりあえず、家に帰らないと....)
私はふらっといつの間にか座り込んでしまった体を起こして立ち上がる。
何故か横にあったあの時代に行くときに持って行っていた鞄を持ってふらふらと歩き出した。
(やっぱり...そのままだ。)
家について鍵を開け、入った私はそのまま部屋のベッドへと流れ込むように倒れた。
必死に目をこするも、見えるのは自分の家の天井だけ。
「光秀さんっ...」
名前を呼んでも、もうあの意地悪な顔と声で呼んでくれる事はない。
その事実を突きつけられる。
(...これなら、思い出してくれないほうが、良かったよっ...)
思い出してくれないほうが、まだ何も知れずに私もすっきりした気持ちで帰れたのかも知れない。
だけど、光秀さんは。
最期に、私の名前を呼んで、手を伸ばした。
その声も、顔も、全て記憶に深く刻まれている。
だからこそ、余計に辛くなった。
「佐助くん、もう思い出さないって言ってたのになぁ...」
自嘲気味に言うが、その言葉は部屋に響いただけだった。
でも、気持ちを切り替えなければならない。
もう、光秀さんはここにはいないのだ。
それを理解してここに戻ってきた。
(いつまでもこうして悲しんでたら、光秀さんに怒られるな。)
そう必死に思い直した。
そして、ベッドから立ち上がる。
(光秀さん...私はあなたの事、死ぬまで、忘れないよ。)
そう思ったと同時に、
閉め切られていたカーテンから、柔らかくも眩しい光がぱっと差し込んだ。
それは、かつて愛した、あの人のような気がして、また涙が溢れた。
それから1ヶ月程が経ち。
私はもう完全に社会復帰を果たしていた。
もちろん最初はどこへ行ってたの、となかなかに問いつめられたけど、今ではもう皆普通に接してくれている。