第25章 消えない想いはいつの日か。『後編』❥明智光秀
「あああっ、え、えっと...」
あからさまにしどろもどろになってしまう私。
そんなわたしを光秀さんはじっと見つめている。
その視線にまた慌ててしまう。
「あ、あのっ...」
言うべき言葉が見つからずにぐっと下を向くと...
「ふ、ははっ、はははっ」
(...え?)
頭上から降ってくる声。
それは怒っている声でも何でもなくて。
(わ、笑い声?)
確かめたくてそっと上を向くと...
「っ...」
口を抑えて、懸命に笑いを我慢している光秀さんの姿。
そんな姿を見るのは久しぶりで。
少しときめいてしまった。
...でも。
(...長すぎない?)
さっきから光秀さんはひたすらに笑いを堪えている。
それに少しムッとした私はいつものように言い返した。
「もう、笑いすぎじゃないですか?」
私がそう言うと。
「あぁ、すまない、どうしても、面白くてっ...」
そう言いながらも更に笑う光秀さん。
(これのどこが面白いのか...)
意外と光秀さんのツボは浅いのかもしれない。
「ほんとに笑いすぎですっ!」
私がそう言うと、光秀さんは今度は一転、優しく微笑んで、
「なんだか、お前とは初めて会った気がしない。」
と、私を真っ直ぐ見つめて言った。
「...!!」
その言葉に思わず硬直してしまう私。
(このまま、言ってしまったほうが、いいの?)
私には、もう貴方といる時間は無いと。
だから、最後だけでも話したいって。
(ちゃんと言ったほうがいいのかな...)
そう思った矢先、私は絶望へと落とされる。
それは、光秀さんが一人でぼそっと呟く言葉を聞いてしまったから。
「...だが、俺の気持ちは夏香にしか向かないけどな。」
(!!!)
でも、聞こえないふりをする。
そして初めて会った気がしない、という光秀さんの言葉に返事をした。
「...っ、そうですね、私も初めて会った気がしません。」
出来るだけ、精一杯の笑みを浮かべて。
すると光秀さんは無意識のように私にそっと手を伸ばした。
「お前の....本気で笑った時の顔は、一度見てみたいものだな。」
そして柔らかく頬に触れる。
その感覚が懐かしくて、思わず涙が出そうになった。