第24章 消えない想いはいつまでも。『前編』❥明智光秀
そんなことを思ってしまう自分が嫌になる。
でも、一つ疑問があった。
(どうして、夏香さんが光秀さんと恋仲になった途端、光秀さんは私のことを忘れていたんだろう...)
もし光秀さんが私のことを覚えていたら、きっと何かが違っていたんだろうと思う。
だけど...
(忘れちゃってるもんね...)
どれだけその事を考えても答えは出ない。今はただ佐助くんの返事を待つだけだ。
そして。
(もう、光秀さんとは恋仲には戻れないんだろうな...)
私は諦めに近い感情を抱いていた。
もし光秀さんが私を思い出したとしても、きっと光秀さんは夏香さんを取るだろう。
これまで過ごしてきた日々の大きさはきっと一番近い記憶の夏香さんである筈だから。
(...ならもう私がここにいる意味ってあるのかな。)
手を動かしながらもついついそんなことを考えてしまう。
光秀さんが私のことを覚えていないのなら。
私が、この乱世にいる必要は、あるの...?
決してこの環境が嫌なわけではない。
周りの武将たちも前と同じように優しく接してくれている。
だからこそ、光秀さんだけに忘れられているのは辛いのだ。
光秀さんが私を覚えていない。
そんな紛れもない事実がこんなにも心を傷つける。
そして、そんなことを何回も思ってしまう自分が嫌になる。
そうしてまた私が自己嫌悪に陥っていると...
がらっ
針子部屋の襖が開いて誰かが顔を出した。
「!」
その姿にひゅっと喉が詰まる。
「...光秀さん....っ」
小さく呟く。
入ってきたのは、愛しい人。
でもその声はもう届かない。
何故なら、その瞳は私をすり抜けて、別の人を探していたのだから。
「おい、夏香。」
光秀さんが夏香さんに声をかける。
「あ、光秀さん!」
夏香さんが嬉しそうに光秀さんに駆け寄った。
その様子を針子の皆が微笑ましそうに見つめる。
その皆の姿に、あぁ、私のときもこんなふうに優しく見守ってくれてたのかな、なんて柄でもない事を思ってしまう。
「どうしたんですか?」
「あぁ、時間が空いたのでな。お前を迎えに来た。」
「え、どこかに行くんですか?」
「そうだな、今日は晴れだから城下にでも行くか。」
目の前でされる会話。