第24章 消えない想いはいつまでも。『前編』❥明智光秀
だが、本当の事は言えない。
そこで、私は光秀さんの隙をついた。
光秀さんは話すときに体を右に傾ける癖がある。
それを利用して私は光秀さんの体の左側をぱっと走り抜けた。
「!?」
光秀さんが驚く気配がするがお構いなしに私はそのまま廊下を走り抜ける。
(ごめんなさい...!今は光秀さんに何も言えない...!)
そう思いながら一気に走り抜けて、そのまま城下に出た。
華がいなくなった廊下では...
光秀がぽかんとしたように立ちすくんでいた。
「あの娘...俺の癖を知っていたのか...?」
この癖はかなりそばにいないと見抜けないような些細な癖だ。これまで政務に支障がないからと放っておいていたのだが...
「なぜ、あの娘が...?」
そう呟きながら光秀は華と名乗るその娘のことが更に分からなくなっていく予感とともに、どこか胸がざわめいた。
(っ、光秀さんにはこれから顔を合わせられないな...)
いつも百発百中の確率で佐助くんがいる茶屋に向かう途中で私はそんなことを考えていた。
光秀さんをおしやってここまできたのだ。きっと光秀さんも私に良い印象を抱いていないだろう。
(...まだ、受け入れられない、な。)
光秀さんが私を見るときのあの目は、かなり私にとって辛いものだった。
それに、夏香と名乗る人も誰か分からない。これまで関わった中で一回も見たことのない名前だった。
(...もう、恋仲には戻れないのかな。)
そんなことを思ってまた涙が浮かんできたとき...
「あれ、華さん?」
前から声が聞こえ、私ははっとして顔を上げる。
「佐助くん...っ」
佐助くんがいつものポーカーフェイスで私の前に立っていた。
私は佐助くんの言葉を待たずに一気に喋りだす。
「あの、佐助くん、相談したいことがあるの...!その、恋仲の相手の記憶がなくなったり、私が知らない女の人と恋仲になってるって、なにかっ、原因が...」
話している途中だが涙が溢れてしまう。
そんな私を見た佐助くんは少しだけ眉を動かすと、私にゆっくり話しかけた。