第19章 桜記念日『前編』❥真田幸村
「え、華はここの出身じゃないのか?」
「はい、少し遠いところです」
そう言って華がはにかむ。
俺達はあそこだと話せないだろうと場所を移動して茶屋にいた。
「じゃあ、どこの出身なんだ?」
俺がそう聞くと、華は急に口をつぐむ。
「っ、あの口では、説明できなくて、その...」
いきなりしどろもどろになる華に不思議に思っていると、ふいに華が話題を変えた。
「あ、幸村の出身はどこなんですか?」
俺はその言葉に違和感を覚える。
(幸村って呼び捨てなのに敬語か...)
なんだか合っていない気がする。
そう思って口を開く。
「幸村って呼ぶなら敬語やめろよ」
「っえ...」
華がまじまじと俺の顔を見る。
「なんか、合っていない気がするんだよな。幸村なのに敬語って。」
俺の言葉を聞いた華はこくん、と喉を鳴らした。
「じゃあ、分かった。幸村。」
そうして華は俺に敬語を使うのをやめた。
漸く話しやすくなった俺はまた話を戻した。
「で、俺の出身だったよな。俺の出身は信濃だ。」
「信濃...?」
華は頭を捻らせる。
(え、信濃が分からないのか...?)
少し時間を置くと華はいきなり顔を上げて、
「あ、長野県か!」
と、大きな声で言った。
(ながのけん...?)
今度は俺が頭を捻らす番だった。
「ながのけんってなんだ?」
俺は華に聞くが、華ははっとした顔になって、
「いや、なんでもないよ!気にしないで!」
慌てたように手を顔の前で振った。
(そんなことより。)
俺は少しだけ考える。
何故こいつは出身地を言えないんだ...?
別に俺は出身地が田舎だろうと何も動かされたりはしない。
だが、それを心配したんだと思って華に言うが、
そうじゃないよ、と言って苦笑いした。
じゃあ何故こいつは出身地を言えない...?
そんな微かな疑問も残ったが、華がまた質問してきたことによってその疑問は何処かに行った。