第19章 桜記念日『前編』❥真田幸村
「で、幸村はいまはどんなお仕事してるの?」
華は俺にそう言った。
「あぁ、俺は...」
(!)
そう言おうとして俺は咄嗟に手を口に当てた。
(武将だなんて言ったらこいつは怖がるだろうな。)
俺の経験上、武将だと名乗ったときの女の顔は毎回怯えている。
だがいつまでも黙っていると華に怪しまれるだろう。
そこで俺は適当な職業を口に出した。
「あー、俺は...商売人だ。春日山で商売人をしてる。」
「そうなんだ!幸村は商売人なんだね!」
華がすごい、と言った目で俺を見つめる。
そんな目を見ていると罪悪感が少し湧いてきたが、本当の事を知るよりはマシだろう。
そこで俺はこの話から逸らすために同じ質問を華にした。
「で、お前はどんな事をしてるんだ?」
そう聞くと。
「あ...えっと、」
華は出身地を聞いたときと同じように慌てた。
そして視線をうようよと彷徨わせる。
(さっきからどうしたんだ...?)
挙動不審なところが多すぎる気がするが...
「えっと、私は、その、安土城で...」
後半になるにつれて声が小さくなっていくため、何を言っているか聞こえない。
「ごめん、聞こえなかった。もう一回言ってくれるか?」
俺がそう言うと、
華はしどろもどろになりながらも口を開いた。
「私は...その、安土城で匿って貰ってるっていうか...そこで仕事してるっていうか...」
(...え?)
「お前、安土城で働いているのか...?」
華が小さく頷く。
(嘘だろ...)
目の前が暗くなったのが分かった。
安土は、俺の敵の領土だ。
まて、じゃあ、こいつと俺は敵ってことか...?
にわかに信じがたくて、華を見つめるが、?というマークを浮かべているだけだ。
(そんなわけ、いや、でも、事実か...)
華からはそれ以上の事は語られない。
ならばそれが事実だ。
(っ、こんなことってあんのかよ...!?)
幸村はぐっと下を向いた。