第19章 桜記念日『前編』❥真田幸村
「っあ...」
その女が無意識のようにこちらに歩いてくる。
俺も無意識のうちにその女に向けて手を差し伸べていた。
女がこちらに来る。
そして、
俺の手をぎゅっ、と握った。
なぜ手を差し伸べたのかは分からない。だけど今この女を逃してはいけない気がした。
そのまま二人で見つめ合う。
どれくらい、そうしていただろうか。
俺の頭も最初の頃からだいぶ冷めてきた。
すると色々な考えがいきなり頭に浮かんでくる。
(こ、これって名前とか聞いていいのか?いや、初めて会ったやつだしさすがに無礼に当たるか...?いやでもな...)
なんていうのが頭を支配していたとき。
女が口を開いた。
「あの、お名前とか、聞いてもいいですか?」
(っ、)
初めて聞いたその声にまたどくんと心臓が高鳴る。
だが俺は冷静を装った。
「俺は...幸村。幸村だ。」
すると
その女は俺の名前を復唱した。
「幸村...ゆきむら、さん」
そう言って俺の顔を見つめてくる。
それにまたどきどきしたが...
「さん、なんて要らねぇ。俺はそういう質じゃねぇからな。」
「え...」
と、女が少しだけ驚いた顔をしたが、
「...ゆきむら」
そう言ってにこっと笑いながらまた俺を見つめる。
(っ...!!)
初めて見た笑顔。
破壊力は、異常だ。
その初めての感情に戸惑っていると...
「私は、華。華って言います。」
そう言ってまた笑った。
その女... 華と俺との出会いは、そんなもんだった。
でも、気づいたときには、もう雨は止んで。
桜が、俺たちの出逢いを喜ぶように、
花びらを降らせた。