第6章 初めての船旅
「はぁっ…、」
どれくらいそうされていただろう…
ようやく口付けから解放された時には、虚ろな瞳で小太郎を見上げる事しか出来なかった。
「…その顔…他の男の前でする事は許さない」
「……、」
濡れた雪乃の唇を指でなぞりながらそう囁く小太郎。
自分がどんな顔をしているかなんて分からなかったが、その言葉に反論する気力などどこにも残っていなかった。
何故彼がこんな事をするのか…
これも仕置きの一環なのか…
上手く回らない頭で必死に考えてみたが答えは出ない。
けれど次の瞬間…
「雪乃……お前の事は俺が守る」
「っ…」
一瞬幻聴なのではないかと疑う程、信じられない言葉が聞こえてきた。
(…ふうま、さん……?)
「…故に俺に隠し事はするな。いいな?」
「……、」
「返事をしなければこのまま続きをするが?」
「わ、解りました!」
慌ててそう答える雪乃に触れるだけのキスをすると、彼は瞬く間に姿を消してしまった。
「なに…、今の……」
まだ熱の残る唇を指でなぞってみる。
彼は一体どういうつもりであんな事を…?
今さっきまでのやり取りを思い出してみるが、初な雪乃にとってはそれすらも困難だった。
(ダメだ…もうふうまさんの顔まともに見られない…!)
(俺は一体何を…)
雪乃の前から姿を消した後、小太郎は朧月を眺めながら自問していた。
『…お前の事は俺が守る』
自然と出てきた言葉だったが、あんな事を口走った自分が信じられない。
それに…女に欲情したのも初めてだった。
今まで何人もの女を抱いてきたが、それは全て任務の為。
心の底から抱きたいと思った女など1人もいない。
それなのに…
「………」
頬を染め、潤んだ瞳で自分を見上げていた雪乃の顔が脳裏に焼き付いて離れない。
恐らく彼女は生娘だろう……そうでなければ、自分はあのまま…
そこまで考えて小太郎は自嘲した。
自分自身を愚かだと思う反面、それも悪くないと思っている己がどこかにいる。
(…末恐ろしい娘だ)
心の中でそう悪態をつく彼だったが、その唇は緩やかな弧を描いていた…
続