第5章 奥州の竜
「ふうまさん…!」
「…テメェ、朝から普通に登場すんじゃねぇよ。もっと忍らしく忍べねぇのか」
「………」
元親の存在は無視し、雪乃に「自分も奥州へ行く」との旨を伝える小太郎。
雪乃以外の人間がいる前ではやはり喋るつもりなど無いらしい。
「でもふうまさん、お仕事はいいんですか?」
「(コクリ)」
「ハッ、随分と雪乃に御執心なんだなァ」
「………」
2人の間に何となくピリピリした空気が流れるのを感じ取った雪乃は、話を逸らすように明るい声でこう言った。
「で、でも私楽しみです!船旅もそうですけど、この島から出るの初めてなので!」
「おう!船旅はイイもんだぜ?俺がでっけぇ魚釣って雪乃に食わせてやるからな」
「ふふっ、ありがとうございます。元親さんてホント、お兄ちゃんみたい」
「…お、お兄ちゃん?」
「はい。私には3つ年上の兄がいて…今はちょっと会えない状況なんですけど…。でももう1人お兄ちゃんが増えたみたいで嬉しいです」
「そ、そうか…」
複雑な気持ちで笑顔を引きつらせる元親。
確かに自分は雪乃の事を"家族同然"だと言ったが、実際"お兄ちゃん"と言われると若干凹む。
そんな元親を見て「フッ」と鼻で笑ったのは小太郎だった。
「テメェ、今笑いやがったな!?」
小馬鹿にされたような気がした元親は怒って小太郎に殴り掛かる。
けれどその拳をひらりと躱し、小太郎はあっと言う間に姿を消した。
「…あの野郎、覚えてろよ」
「……、」
そう毒づく元親に、奥州までの船旅が一気に不安になる雪乃であった…
続