第5章 奥州の竜
「…船を貸せだぁ?」
政宗から受け取った土産物の酒を口にしながら、元親は訝しげな顔をした。
政宗が遥々この地へやって来たのは、元親から船を借りる為だったのだ。
「アンタらここまで船で来たんだろ?今更必要無ぇだろうが」
「あれは只の移動用の船だ。俺が欲しいのは海上でも戦える戦用の船なんだよ」
「…海上戦でもおっ始める気かい?」
「今すぐじゃねぇがな」
猪口を手に不敵に笑う政宗を見て元親は溜め息をつく。
船を貸す事自体は難しい事じゃないが、一体自分にどんなメリットがあると言うのか。
今はお互い敵対関係に無いと言えど、この先伊達軍に自分の縄張りを荒らされないという保証はどこにも無い。
「勿論タダでとは言わねぇ」
「………」
「限度はあるが、アンタが望むだけの金と兵糧を用意する」
「ハッ!俺も随分と見くびられたもんだなァ。金に釣られてこの俺が了承するとでも?」
「アンタこそ俺を見くびんなよ?この国の財政状況が常に火の車だって事はresearch済みだぜ?」
「ぐっ…」
痛い所を突いてくる政宗。
確かに長曾我部軍は、大掛かりな絡繰りや兵器を造る為に大金を遣い財政難に陥っている。
国を守る為とは言え、年貢を納めてくれている民に申し訳ないと思う事もしばしばだ。
口を噤む元親に追い打ちを掛けるかのように、政宗は更にこう続けた。
「それとも何か?船を手に入れた独眼竜には、鬼ヶ島の鬼も勝てねぇってビビってんのかよ?」
「…!」
それが政宗の挑発だという事は重々承知していたが、ここまで言われては西海の鬼も黙ってなどいられない。
「誰がビビってるだと?…ケッ、いいだろう。田舎者のアンタに、この鬼ヶ島の鬼が船を貸してやるよ」
「OK、交渉成立だな」
そう言って口笛を鳴らす政宗に、「もうひとつ条件がある」と告げる元親。
「アンタは確か異国とも交流を持ってるんだったな」
「それがどうした?」
「だったら探してほしいもんがある」
「…?」
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