第5章 奥州の竜
(やっぱり見つからなかった…)
雪乃がこの世界へ来てから、すでにひと月が経とうとしていた。
昨日、ようやく手が空いた元親と共に例の森へ足を運んでみたのだが、元の世界へ帰れそうな手掛かりは一切なく…兄の形見であるネックレスを見つける事も出来なかった。
焦ってもどうにもならない事は解っていたが、日が経つにつれ彼女の不安は募るばかりだ。
そんなある日…
「…伊達政宗さん…?」
「あぁ」
元親に話があると言われ、雪乃は彼の部屋を訪れていた。
そこで彼の口から出た名は、あの有名な戦国武将――伊達政宗だった。
何度か戦場で顔を合わせた事のある元親と政宗は、戦に対しての考え方や部下たちへの想いに共通した部分があり、お互い認め合っている仲だ。
今回、そんな政宗がこの四国へやって来るらしい。
「何をしにいらっしゃるんですか?」
「それがこの文には書いてねぇんだよ…あの野郎」
手元の文を読み返しながら溜め息をつく元親。
彼いわく、理由も無しに政宗が攻めてくる事は無いというが…
「…そこでだ雪乃」
「…?」
「独眼竜がここへ来れば、自ずとお前とも対面する事になる」
「……、」
「前にも言ったが…お前がこの世界の人間じゃないって事はくれぐれもバレねぇようにしてくれ」
「は、はい…もちろん」
雪乃が異世界の人間である事を知っているのは、この屋敷でも元親だけ。
颯や他の部下たちには、戦に巻き込まれて帰る場所を失った娘とだけ伝えてある。
戦も今は落ち着いているが、只でさえ混乱しているこの世の中。
雪乃に興味を持つ輩が出てくれば面倒な事になる。
余計な心配事を増やさない為にも、以前から元親は口を酸っぱくして彼女にそう訴えていた。
(…独眼竜は只でさえ好奇心の塊だからなァ)
雪乃の正体を知れば絶対に興味を持つに決まっている。
自分の事は棚に上げ、元親はもう一度深く息を吐いた…
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