第4章 隙間録~小太郎編~
その後俺は相変わらず傭兵として各国を飛び回っていたが…氏政の時のように誰か1人に仕える気は起きなかったし、仕えようとも思わなかった。
…それなのに。
(…まさかこんな小娘に振り回される羽目になるとはな)
首を突っ込んだのは他でもない自分だけれど。
そう思いながら、隣で茶を啜っている雪乃に目をやる。
何の変哲もない娘。
愛らしいと形容しても差し支えはないが、誰もが振り返るような美女ではないし色気も無い。
「…ふうまさん?」
俺の視線に気付いたらしい彼女がこちらを見上げてくる。
その透き通った黒い瞳に一瞬目を奪われた。
この戦乱の世を生きていながら穢れを知らないその瞳。
その綺麗な瞳には俺の顔が映っている。
「どうしたんですか?私の顔に何か付いてます?」
そう言って自身の頬に手を当ててみせる雪乃。
そんな彼女に少し意地悪をしてやりたくなった。
「…相変わらず平和ボケした間抜け面だと思っただけだ」
「なっ…あんまりです!」
「フン…褒め言葉として受け取っておけ」
「どこがですか!」
表情豊かな彼女を見ているのは飽きない。
自分の言葉で一喜一憂する彼女。
一度失った命をこの娘に預けてみるのも悪くないかもしれない。
らしくない事を思いながら、俺はすっかり冷めてしまった茶を啜るのだった…
了